『さかな1ぴき なまのまま』刊行45周年
2023年12月には45周年を迎えます。
『さかな1ぴき なまのまま』は佐野洋子の作品の中で、油彩で描かれた唯一の絵本です。
佐野洋子の「あとがき」をご紹介します。
わたしは、ひろちゃんなんか、だいきらいでした。あんまり色が真っ黒で、おでこなんかじゃがいもみたいで、鉛筆を鼻の穴につっこむ競争で(ひとつの穴に三本も入れられるのはひろちゃんだけだったのです)六本の鉛筆をぶらさげたまま、教室を歩きまわって、そのまま教壇に立たされたりしていました。
でも、ひろちゃんの家は、隣だったので、わたしは毎日遊んでいました。
わたしは隣のともだちが、やまぐちくんならいいのにと思いました。やまぐちくんは、目が大きくて、まつげが長くて、半ズボンをはいて、それにとても勉強が出来て、鼻の穴に鉛筆なんか決してつっこんだりしませんでした。
わたしは毎日毎日ひろちゃんと遊んで、毎日毎日けんかをしていました。わたしの自転車を横取りしたまま、野原中を走りまわるひろちゃんのあとを、わたしは泣きながら、枯れ草をなげつけながら追いかけました。どんなにわたしは口惜しくて、どんなにひろちゃんが憎らしかったことでしょう。わたしもひろちゃんも泥だらけで、二匹の野良犬みたいだったにちがいありません。
でも、わたしには、広い広い、夕焼けで火事のような真っ赤な野原と、小さな小さな男の子と小さな小さな女の子が見えます。枯れ草は花火のように光っています。
ある時、砂場に、ひろちゃんは、わたしのボールを埋めてしまいました。
わたしが砂だらけになって掘りかえしても、ボールは出て来ませんでした。
今、遠い町の小さな砂場に、大事な宝物が、かくされたままになっていることがアリババの宝物にもわたしにはかえがたいことです。
時をともに分かち合う事が、友情だと思う時、沢山の思い出を贈ってくれたひろちゃんにわたしはどんなに感謝していることでしょう。
わたしがともだちをさがしに旅に出ても、ともだちをみつけることなど出来ないかもしれません。もしかしたら出来るかもしれません。
人と人とがともだちになったきっかけを思うと本当に不思議です。
さのようこ
絵本として製作される前に、雑誌「子どもの館」に掲載されました。
「子どもの館」1978年1月号 絵物語「魚一ぴき生のまま」 福音館書店

